発達障害のリスク調査について~(その3)

馬場利子 - くらし
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2009年5月28日記
環境カウンセラー 馬場利子(静岡市在住)

化学物質の脳への影響


 前回までに、化学物質と子どもの健康について、リスク評価を行うために、 環境省が2010年から6万人の妊婦を対象に、母親の化学物質汚染濃度を測定し、その後、生まれてきた子どもの体内化学物質濃度と発達状況を12年間、追跡調査をする事をお伝えしました。

 

  (調査の詳細は環境省の http://www.env.go.jp/chemi/ceh/gaiyo/ 参照)

環境省は、2007年の検討委員会立ち上げから2025年の「小児の発育の影響を与える環境要因の解明」 の中間取りまとめまで、毎年、多くの税金を使ってこの調査を行う訳ですが、それに先駆けて、昨年12月14日、15日には環境省主催で『化学物質の環境リスクに関する国際シンポジュウム』 が開催され、アメリカ、オランダ、韓国、デンマーク、ノルウェー、香港など各国の研究者と日本国内の研究者が 化学物質と子どもの健康について多くの研究が発表されました。

 そのシンポジュームでは、化学物質による小児の喘息、先天性欠損(口蓋裂、尿道下裂など)、ダウン症、読字障害、注意欠陥多動障害、自閉症、統合失調症、肥満、異常な出産の増加が数字を挙げて報告されました。

 このような健康被害が医療の現場で分かっていたならば、被害がこれほど大きくなる前に、なぜ、医学の専門家や行政関係者は、将来起こるであろう子どもの健康リスクを下げるために、原因を究明しようと努力しなかったのか、残念でなりませんでした。

 専門家や行政、政治に任せていては、未来のために今、出来る事を逃がしてしまうとさえ、感じました。
と同時に、今まで私たちが“健やかな命を繋ぐ暮らしと環境”について、学び、 必要の無い化学物質を買わない、使わない暮らし を心がけてきたことは、間違ってはいなかったのだと、確信する機会となりました。

 化学物質が、地球の生命史上、かつて無いほど蔓延し、健康被害を及ぼしている事は、子どもや人だけでなく全ての命を脅かしている事は間違いありません。

特に化学物質の影響をより大きく受けるのは、こらから生まれてくる命(胎児期から新生児期)ですが、その影響は、先天的な身体的奇形と脳の機能障害として起こる読字障害、注意欠陥多動障害、自閉症、統合失調症などの発達障害といわれるものがあります。

 

発達障害の子どもとどう育ちあうか
 私は、25年前、長男が乳児だった時に、ドイツの母乳のダイオキシン汚染データを知って自分の母乳を測定したことから、母乳のダイオキシン汚染の現実と向き合わねばならなかったのですが、その頃、すでにアメリカでは、母乳の汚染と乳児の健康リスクについて、今、日本で問題となっている発達障害児の1原因となる可能性について指摘する研究論文がありました。

 その論文を読んで、私が強く不安に感じた事は、身体的障害は医学的にも教育システムも、社会制度として対応が進んでいましたが、コミにケーションや感情、行動、思考、学習などの障害は、社会的な生活を余儀なくされる人間にとって、身体的障害よりも大きな問題を抱える事になるだろうという事でした。

 環境汚染から考えれば、わが子がそうした障害を持つ可能性と、他の子どもに障害が現れる確率は全く同率で、どの子がそうした障害を得ても不思議はないと思われました。

 このままの暮らしを皆が続ければ、障害を持つ子どもの数は確実に増えていくに違いないと感じた私は、25年前から、化学物質と子どもの脳の発達(発達障害)について関心を持ち、生活者自らが、出来うる限りの予防原則に則って、 化学物質の使用を減らして暮らすように活動を始めたのでした。

 しかし、現実には、環境省の国際シンポジュームで指摘されたように、環境に潜む化学物質はすでに多くの子どもたちにリスクを背負わせることになってしまいました。


 そこで、私から2つお願いがあります。
 1つは、当然のことながら、今まで通り、暮らしの中で化学物質の使用を極力減らし、さらに、命を脅かす環境汚染を無くしていくように、周りの人々に環境省が報告している 『化学物質の環境リスク』 について伝え、共感してくださる人が自立的に暮らしを見直しいけるように、手を繋いで欲しいという事です。

未来を創るためです。

 

 2つ目は、もし、皆さんの周りで、すでに発達障害と診断されたお子さんや、思考的、生活的に発達に障害が見られる子がおられるようでしたら、その子にはどのようなサポートや協力が必要なのか、保護者の方とフランクに話せる関係、地域力を養う努力をお願いしたいという事です。

これも、未来を創るためです。

 

 今は、小・中学校には必ず1校に1人“支援教育コーディネーター”の教師がおかれる取り決めになっています。
しかし、専門の教育を受けた支援教育コーディネーターの教師は、まだ、1県に何人も居ません。
ですから、発達障害について理解していない教師も多く居ます。

 発達障害の子どもたちにとって、誤った自己評価を下されたり、周りの人の無理解からくる言葉の暴力は、自尊心を傷つけられ、自己肯定の心を失って、被害者意識に固まったり、孤立感から社会生活を否定し、引きこもったり、社会そのものに対して攻撃的な行動をとる二次障害を起こす原因となると言われています。

 社会と無縁で生きられる人はいません。人と人の関わりの中で、どう幸せに暮らしていけるか、精神的な人為的環境を理解していく努力がこれから大きく問われていくと思います。

 生きにくい子どもたちの育ちを見守る中で、私たちが社会の中で何を必要としているか、新しい発見をしながら社会を創っていきたいと切に願います。
 皆さんと一緒に・・・。 

最終更新 2011年 8月 21日(日曜日) 08:18