発達障害のリスク調査について~(その2)

馬場利子 - くらし
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2009年2月27日・記
環境カウンセラー 馬場利子(静岡市在住)

化学物質の脳への影響

前号で化学物質と子どもたちに多くなっている発達障害の機序について、お話しましたが、発達障害のスクリーニングは3歳児検診や就学時検診で、チェックするようになっています。
それだけ、発達障害児が多くなっているという事と早期発見によって、個別の支援教育を始めるために行われます。

 

発達障害はどうして起こるのか
発達障害は胎児期の妊娠3週から4週前後に、化学物質によって脳の細胞の発達を阻害するために起こる脳の機能障害で、障害を受けた脳の機能は医学的には良くも悪くもならないと言われています。

 なぜ、化学物質によって、脳が傷害されるかといえば、胎児期に脳が作られる時期に、自然な脳の発達に必要な体内物質が、外部から取り込まれた化学物質によって、疎外されるために起こることが分かっています。

脳の機能は多岐にわたっていますから、知能、運動能力、情緒、感情、認識、記憶など、障害の症状は様々、個別の問題を示す事になります。

 

2010年、環境省が大規模な実態調査を始めます
 1997年、先進8カ国の参加による子どもの環境、保健に関する環境大臣会合が開催され、 子どもの環境保健を最優先事項とする「マイアミ宣言」が採択されました。

これを受けてアメリカでは「環境保健リスクと安全リスクに対する小児の保護」が発令され、欧州では、健康影響や健康ハザードから子どもを守るために必要な研究や施策を優先事項とすることが明確化されました。

すでに、アメリカ、ノルウェー、デンマーク等では、国家プロジェクトを開始しています。

日本でも、かなり遅れましたが、環境省が2007年より、小児と環境リスク(化学物質のリスク)をテーマとした全国調査を行うために検討委員会を立ち上げ、化学物質と子どもたちの健康状態の変化について、以下の点が確認されています。

 

  環境省は、2010年から6万人の妊婦を対象に、母親の化学物質汚染濃度を測定し、その後、生まれてきた子どもの体内化学物質濃度と発達状況を12年間、追跡調査をすることにしています。

(詳細は環境省の http://www.env.go.jp/chemi/ceh/gaiyo/ 参照)

 環境省は2007年の検討委員会立ち上げから、2025年の「小児の発育の影響を与える環境要因の解明」 の中間取りまとめまで、毎年、多くの税金を使ってこの調査を行う訳ですが、その目的の1つに『化学物質規制の審査基準へ反映』する事が挙げられています。

 国が企業活動を規制したり、化学物質の排出抑制を法的に行うためには、科学的に、人的被害を証明する必要があるため、このような調査が必要となるわけです。

 いのちと環境に関心を持っている私たちにとっては、「今頃ですか?!」とため息が出てしまうのですが、 国が調査をするということは、すでに被害や障害を放置できないほどになっているという証し でもあります。

 

国の規制を待つまでもなく、化学物質のリスクを減らす暮らしを!
 暮らしの中の化学物質は子どもたちの健康に影響を与えているだけでなく、動植物にも大きな影響を与えている事は、すでに多くの科学者が指摘しています。

レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を現したのは、1962年。
DDTを始めとする農薬 などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という表現で、私たちに未来の地球の姿を警告してくれましたが、その言葉に耳を傾けて、暮らし方を見直してきた人々と、全く関心を示さなかった人々がいました。

 自分たちの健康に直接、被害が及ばなければ『無害』とする考え方は、致死量や安全基準値以下であれば安全としてきた国の考え方と同じですが、 1997年以来、農薬などの化学物質は、安全基準値よりはるか微量であっても作用を及ぼすという『環境ホルモン作用』が、科学的に証明されるようになっています。

 

 

人や環境に影響を及ぼす化学物質の代表的なもの
★合成洗剤 ★農薬 ★塗料 ★化粧品 ★薬 ★食品添加物など

 

 

 合成洗剤は環境ホルモン作用があると、環境省も指摘しています。
合成洗剤は水中生物を殺すだけでなく、精子を殺傷する作用もあります。
いのちや細胞を殺す物質が、人に安全であるという事は、考えられません。
同じように農薬についても、化粧品についても、薬についても、そのリスクをちょっと考えてみると・・・不安なものは使わない、 というとても簡単な暮らし方が見えてきます。

1人、1人が暮らしの中で出きることを!

 

発達障害の2次障害を未然に防ぐためのリハビリ教育の重要性
 化学物質による様々な健康被害の中で、私が長い間、一番憂慮して関心を持って追跡研究をしてきた問題が、『発達障害の子どもたち』のことでした。

 発達障害の人に総てに該当する症状が『言語障害』(言語認識力の未熟さ、言語化の未熟さ)であると医学的に言われています。

 発達障害は子どもたちだけでなく、大人にも見られる(現在、40代の人でも4~8%)といいます。

 言葉の認識力不足は、人と人が理解しあったり、相手の事を思いやったりする『心の交流』を困難にするだけでなく、本人の孤独感、疎外感は計り知れず大きいと思われます。

 子どもへの虐待や利己的な犯罪を起こす人の中には、発達障害であることが分からないまま放置された結果、社会的適応が困難となり、反社会的な行為に及ぶ事も指摘されています。
この点については次回、お話してみたいと思います。

 

 

 

最終更新 2011年 8月 21日(日曜日) 08:09